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バーンアウト(燃え尽き症候群)

はじめに

「燃え尽き症候群」という用語についての注意事項

本コラムで用いる「燃え尽き症候群」という表現は、正式な精神科・精神医学的診断名(たとえば うつ病・適応障害・双極性障害など)ではありません。

医学的な観点から整理すると、以下の事情があります。

  1. 燃え尽き症候群(英語 “burn-out”)は、特に職業活動文脈において「慢性的な仕事ストレスが適切に管理されなかったことによる現象」として、ICD‑11では「疾病(病気)」ではなく「雇用あるいは失業に関連する現象」として位置づけられています。 WHOの記事

2.そのため、燃え尽き症候群を「○○病」「○○障害」というように明確に診断コード付きの疾患名と同じように扱うことは、現時点の精神科専門分類・診断マニュアル上では適切ではないとされています。

3.とはいえ、臨床的・実務的には「長時間勤務・過重な責任・慢性ストレスなどに起因し、感情的枯渇・仕事への距離感・自己効力感の低下などを示す現象」として、多くの医療・産業保健・精神保健の場で注目されています。

 

なぜ精神医学的コラムとして扱っているか

・「燃え尽き症候群」は、明確な診断名ではないとはいえ、ここ数年で職業性ストレス・バーンアウトの研究が進み、精神的・身体的健康にも広く影響を及ぼすことが分かってきました。たとえば、疲労感・無気力・集中力低下・身体不調(頭痛・睡眠障害・消化器症状)などが報告されています。 参照

・特に医師・看護師・教員・介護職など「人のケア」に携わる仕事では、直接的な患者・利用者対応のストレス・責任が燃え尽き現象と重なり、精神科・心療内科の臨床現場でも“予備的ケア”・“早期介入”の観点から取り上げられています。

・したがって、「燃え尽き症候群」を“正式な診断名”ではなく「専門的視点から注意すべき臨床的・職業的現象」として整理し、読者(患者・働く人)に「自身の心身の状態を把握し、対応を検討する契機」として提供することは、精神医学・予防医学の視点から意義があると考えられます。

 

読者へのメッセージ

本コラムでは、「燃え尽き症候群」という用語を用いますが、それは「診断を確定するための医療用語」ではなく、むしろ「働き方・ライフスタイル・ストレス対応を含む、心身のリスクが高まっている状態を示す指標的な表現」としての意味を持ちます。

もし「疲労が抜けない」「仕事が楽しくなくなった」「集中できずミスが増えた」「身体的にも何となく調子が悪い」と感じたら、これは燃え尽き状態のサインかもしれません。そしてそのような場合、専門的な診断(精神科・心療内科)や職場・産業保健との連携・働き方の見直しなどを検討するきっかけとして頂ければと思います。

本コラムを通じて、読者のみなさまには「燃え尽き症候群的な状態」に対して“気づき・理解・対策”の視点を持っていただき、そのうえで必要に応じて医療的・福祉的対応につなげる橋渡しとなればと思います。

 

バーンアウト
(燃え尽き症候群)とは

バーンアウト(燃え尽き症候群)は、特に医療や福祉、教育などの対人サービスに従事する人々に多く見られ、長期間の過度なストレスや仕事の負担により、心身が消耗し、意欲や熱意を失う状態を指します。1970年代にアメリカの精神心理学者ハーバート・フロイデンバーガーによって提唱されました。WHO(世界保健機関)では職業性ストレスによる健康問題として扱われていますが、医学的な正式名称としてはICD-11やDSM-5などに「バーンアウト症候群」という独立した病名はありません。主な症状には、情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成感の低下があり、これらは仕事のパフォーマンスにも悪影響を及ぼします。バーンアウトは、ストレス管理や職場環境の改善を通じて予防・対策が可能です。

バーンアウトとうつ病の違い

バーンアウト(燃え尽き症候群)とうつ病は、いくつかの点で異なります。バーンアウトは主に仕事や対人関係に関連したストレスから生じ、情緒的消耗感や無気力感が特徴です。特に、責任感の強い人やサービス業に従事する人に多く見られます。一方、うつ病は気分の持続的な落ち込みを伴い、自己否定感や絶望感が強く、自分を責める傾向があります。バーンアウトは職場環境の改善や休息によって回復することが多いですが、うつ病は専門的な治療が必要です。

うつ病

バーンアウトと適応障害の違い

バーンアウト(燃え尽き症候群)と適応障害は、ストレスに関連する精神的な状態ですが、いくつかの違いがあります。バーンアウトは、主に仕事や対人関係からの過度なストレスによって生じ、情緒的消耗感や無気力感が特徴です。一方、適応障害は特定のストレス要因(転職や人間関係の変化など)に対して適応できず、抑うつ感や不安感が生じる状態です。適応障害は原因が明確であり、環境を変えることで改善が期待できますが、バーンアウトは長期的な職務ストレスからの回復が必要です。

適応障害


バーンアウトの原因

バーンアウトの主な原因は、個人要因と環境要因に分けられます。個人要因には、完璧主義や高い責任感、自己期待が強い性格が含まれます。これらの特性を持つ人は、自分に対して過剰なプレッシャーをかけるため、ストレスが蓄積しやすくなります。一方、環境要因としては、長時間労働や厳しいノルマ、不規則な勤務時間などが挙げられます。特に対人サービス業では、顧客との関係性を重視するため、情緒的消耗が大きくなりやすいです。このような要因が重なることで、バーンアウトのリスクが高まります。


バーンアウトになりやすい人の
特徴

バーンアウトになりやすい人の特徴として、以下のようなことがあります。

  • 責任感が強い
  • 真面目で仕事熱心
  • 完璧主義者
  • 自己犠牲的
    (他人の期待に応えようとして自分のことを後回しにする)
  • 高いストレス耐性
    (ストレスを感じても無理をして頑張り続ける傾向)
  • プライベートより仕事を優先する
  • 長時間勤務
    (不規則な勤務や長時間労働が続く環境で働いている)

など


バーンアウトの症状

バーンアウトで生じる症状には、以下のようなものがあります。

  • 仕事に対する熱意やエネルギーが枯渇する
  • 他者に対して冷淡になる
  • 他者に対して思いやりを失う
  • 仕事の成果に対する満足感が著しく減少する
  • 注意力が散漫になる(仕事が進まなくなる)
  • 起床時の疲労感が強くなる
  • 出勤が難しくなる(出勤を避けるようになる)
  • 仕事への興味を失う
  • 小さなことに対して過敏になる
  • 周囲とのコミュニケーションが減少し、孤立感を覚える
  • 自分の能力や価値観について否定的な感情を抱く
  • 頭痛や胃痛など、身体的な不調があらわれるようになる

など


バーンアウトの治療法

バーンアウトの治療法には、主に薬物療法と心理療法が含まれます。薬物療法では、抗うつ薬抗不安薬が使用されることがあります。これにより、症状を軽減し、心の疲労を回復させる手助けをします。特に、うつ病などの併発症がある場合には、適切な薬の処方が重要です。

心理療法としては、認知行動療法が効果的です。思考パターンの見直しを通じてストレスへの対処法を改善します。また、十分な休息やリフレッシュも不可欠であり、趣味や運動を通じて心身をリセットすることが推奨されます。環境の見直しやサポート体制の強化も回復に寄与します。


バーンアウトからの
回復期間は?

バーンアウトからの回復期間は、症状の重さや個人差によって異なります。軽症の場合、十分な休息を取ることで1~2週間程度で改善することが期待できます。中等症では、数か月を要することがあり、長期の休職が推奨されます。重症の場合は、回復に1年以上かかることもあり、専門的なケアが必要です。一般的には、バーンアウトからの復帰には5週間から50週間の時間がかかるとされています。回復には焦らず、自分のペースで進めることが重要です。


バーンアウトの予防・対策方法

休息とリフレッシュ

十分な休息を取ることは、バーンアウトの予防に不可欠です。特に、質の良い睡眠を確保することで心身の疲労を回復させることができます。また、定期的に趣味や運動を取り入れ、気分転換を図ることも重要です。仕事から離れる時間を設けることで、ストレスを軽減し、エネルギーを再充填することが可能になります。

ストレス管理

日常的にストレスを管理する方法を学ぶことも効果的です。具体的には、深呼吸や瞑想、マインドフルネスなどのリラクゼーション技法を取り入れることで、心の安定を図ります。さらに、自分の感情や体調に敏感になり、早期に対処することでバーンアウトのリスクを減少させることができます。

環境の整備

職場環境の見直しも重要です。業務量や目標設定が過度でないか確認し、過重負担を避ける仕組みを整えることが求められます。また、上司との定期的な1on1ミーティングを設けてコミュニケーションを図り、サポート体制を強化することも効果的です。これにより、職場での孤立感やストレス感が軽減されます。

バランスの取れた生活

仕事とプライベートのバランスを意識し、適度な休暇や余暇活動を取り入れることが大切です。特に、業務時間外には仕事関連のメールや電話から離れ、自分自身の時間を大切にすることで心身のリフレッシュが図れます。また、健康的な食生活も心身の健康維持に寄与します。


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