「休んだほうがいい?」を数値で考える:休職判断に使えるWPAIとは
「休んだほうがいいのかもしれない。でも、休むほどではない気もする」
メンタル不調のとき、自分で休職の判断をすることはとても難しいものです。
「本当に休んでいいのか」と迷われると思います。
精神科の患者さんでは、
なんとか出勤はしているけれど、出勤中の能率が大きく落ちて消耗している
という状態がよく見られます。
そんなときに役立つのが WPAI(Work Productivity and Activity Impairment) です。
このコラムでは、WPAIを使って「今の状態で、休職を考えるタイミングかどうか」を整理する方法を説明します。
※WPAIは、休職を考える際のひとつの目安です。
数値にかかわらず、仕事や日常生活に支障を感じている場合は、迷わず心療内科・精神科にご相談ください。
1.WPAIとは何をみるもの?
WPAIは、この1週間(直近7日間)について、
- 仕事にどれくらい影響が出ているか
- 日常生活にどれくらい影響が出ているか
を、数値化する指標です。
仕事については、次の3つをまとめて評価します。
- 欠勤による影響(症状で仕事を休んだ分)
- 出勤中の能率低下(出勤はしたが、うまく働けなかった分)
- 仕事全体としての影響(総労働損失)
さらに、働いている・いないに関わらず、日常生活への影響も評価できます。
2.WPAIの計算方法
◆ 欠勤率(Absenteeism)
欠勤率 =
「症状が理由で仕事を休んだ時間」
÷
(「症状が理由で仕事を休んだ時間」+「実際に働いた時間」)
つまり、
「この1週間の仕事時間のうち、症状のせいで休んだ割合」です。
◆ 出勤時の能率低下度(Presenteeism)
出勤時の能率低下は、次の質問で評価します。
- 出勤中、症状は仕事の能率にどのくらい影響しましたか?
0=まったく影響なし
10=まったく仕事ができなかった
出勤時の能率低下率 =
「出勤中の能率低下(0〜10)」 ÷ 10
例:
- 5点 → 5/10=0.5(50%)
- 8点 → 8/10=0.8(80%)
◆ 総労働損失(Overall Work Impairment)
総労働損失 =
欠勤率 +(1−欠勤率)× 出勤時の能率低下
言い換えると、
「休んだ分」+「出勤したけど十分にできなかった分」を合わせた、仕事全体のダメージです。
結果が 0.40(40%) なら、
「この1週間の仕事のうち、約4割が症状の影響で失われている」
という意味になります。
◆ 日常生活活動の障害度(Activity Impairment)
日常生活への影響も、0〜10で評価します。
- 症状は、日常生活(家事・買い物・外出など)にどのくらい影響しましたか?
0=影響なし
10=まったくできなかった
日常生活活動の障害度=
「日常生活活動への影響(0〜10)」 ÷ 10
3.どのくらいの数値なら、何を考える?
WPAIは診断ではありませんが、休職を考える材料として役立ちます。
ここでは、主に 仕事全体の影響(総労働損失) を目安にします。
■ 仕事への影響が20%未満(0.20未満)
- 大きな影響はまだ少ない
- 早めの治療や環境調整で回復しやすい段階
■ 仕事への影響が20〜39%(0.20〜0.39)
- 症状が仕事にしっかり影響し始めている状態
- 「出勤はできるが、余力がない」「疲れが抜けない」ことが多い
この段階では、たとえば
- 仕事量や責任の調整
- 勤務時間の短縮
- 数日〜1週間の休み
などを考えるタイミングです。
■ 仕事への影響が40%以上(0.40以上)
- 仕事の4割以上が症状の影響を受けている状態
- 就労を続けること自体が、回復を妨げている可能性があります
特に、
- 出勤中の能率低下が高い
- 日常生活への影響も大きい
- これが2週間以上続いている
場合は、休職やしっかりした休養を検討してよい段階です。
4.具体例(よくある2パターン)
例A:欠勤はゼロ。でも出勤中の能率が落ちている(精神科で多い)
- 欠勤時間(症状による)=0時間
- 実際に働いた時間=40時間
- 出勤中の能率低下=4(0〜10)
- 日常生活への影響=5(0〜10)
計算
- 欠勤率=0 ÷(0+40)=0.00(0%)
- 出勤時の能率低下度=4 ÷10=0.40(40%)
- 総労働損失=0+(1−0)×0.40=0.40(40%)
- 日常生活活動の障害度=5 ÷10=0.50(50%)
捉え方
「休んでいないのに、仕事の損失は40%相当」。
生活面も50%障害で、出勤で消耗し、回復の土台(睡眠・家事・食事)が崩れている可能性があります。
このタイプは「欠勤が少ない=軽症」と見えやすいので、数字が助けになります。
例B:欠勤もあり、出勤しても能率が落ちている
- 欠勤時間(症状による)=8時間
- 実際に働いた時間=32時間
- 出勤中の能率低下=3(0〜10)
- 日常生活への影響=4(0〜10)
計算
- 欠勤率=8 ÷(8+32)=0.20(20%)
- 出勤時の能率低下度=3 ÷10=0.30(30%)
- 総労働損失=0.20+(1−0.20)×0.30
=0.20+0.80×0.30
=0.44(44%) - 日常生活活動の障害度=4 ÷10=0.40(40%)
捉え方
欠勤20%に加えて出勤中も30%低下し、総労働損失は44%。
仕事と生活の両方に影響が出ており、就労継続は慎重に考える段階です。
5.まとめ
WPAIは、「どれくらいつらいか」ではなく、
「仕事や生活がどれくらい影響を受けているか」を見る尺度です。
- 欠勤だけでなく、出勤中の能率低下が重要なポイントです。
- 目安として
- 20%以上:無理を続けない工夫を考えるタイミング
- 40%以上:休職を含めて、立ち止まって考えた方がいいタイミング
休むことは、回復するために必要な治療の一部です。