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退職代行を使う人と医療的支援

■退職代行とは?

退職代行とは、本人に代わって職場へ退職の意思を伝えるサービスです。
「自分で言えないなんて」「無責任だ」と言う人もいますが、実際には多くの人が精神的に限界を迎えています。

仕事のストレスで眠れない、涙が止まらない、食欲がない。
そんな状態で「辞めます」と言葉にするのは、ほとんど不可能です。
それは怠けではなく、脳の防衛システムが作動している状態なのです。

■なぜ「辞めます」と言えなくなるのか ― 扁桃体のフリーズ反応とは

人は強いストレスや恐怖を感じるとき、脳の中で「扁桃体(へんとうたい)」という部位が活発に働きます。
扁桃体は、危険を察知して「闘う」「逃げる」「凍りつく(フリーズ)」という反応を起こす警報装置のような働きを持っています。

本来は命を守るための反応ですが、過労・叱責・職場の人間関係・ハラスメントなどで日常的に危険信号が出続けると、この扁桃体が“常にオン”の状態になります。

そして、理性的な判断を担う**前頭前野(ぜんとうぜんや)**がうまく働かなくなり、
次のような状態が起こります。

  • 何を考えても頭が真っ白になる
  • 電話をかけようとすると心臓がドキドキする
  • 「辞める」と伝えようとすると涙が出る
  • 上司や職場の人の名前を聞くだけで体が硬直する

これは性格や意志の問題ではありません。
脳が「もう危険だ」と判断して身体を止めている病的なストレス反応です。

この「フリーズ反応」は、PTSDや適応障害、うつ病の初期にもよく見られます。
つまり、「言えない」は「怠け」ではなく、「脳がブレーキをかけている」状態なのです。

■退職代行ではなく医療に頼るという選択も

退職代行を使うのは悪いことではありません。
ただし、心身の不調を伴っているなら、医療機関に相談することも大切な選択肢です。

心療内科や精神科では、ストレスによる睡眠障害や不安、過敏な身体反応などを診断し、
必要に応じて「休職診断書」を発行できます。

診断書を提出することで、職場と直接やり取りをせずに休むことが可能になります。
医師と相談しながら体調を整え、「休むのか」「辞めるのか」「復帰するのか」を冷静に検討することができます。

退職代行が“社会的な橋渡し”なら、医療は“脳と心を回復させる伴走者”です。

■どこからが“危険な状態”?

次のようなサインがあるときは、すでに脳のストレス反応が限界に近い可能性があります。

状況

対応の目安

不眠・食欲不振・涙もろさ

医療機関で相談(うつ・適応障害の可能性)

職場の電話・通知を見るだけで動悸がする

フリーズ反応。無理を続けるのは危険

「辞めたい」が頭から離れない

早めの受診を推奨

退職後も頭痛や倦怠感が続く

継続的な医療フォローが必要

■「詐病」と「病的ストレス反応」の違い

「病気のふりをして辞めればいい」という意見を耳にすることがありますが、
それは誤りです。

医師が診断書を発行するのは、症状・生活への影響を慎重に評価したうえでの判断です。
仮病で診断書を求める行為は、医療の信頼を損ねるだけでなく、本人の回復を妨げます。

一方で、「甘えかもしれない」と感じて受診した人が、
実際には適応障害やうつ病と診断されるケースも多くあります。
本人が“病気とは思っていない”段階でも、
脳はすでに疲弊しているのです。

■退職代行は「逃げ」ではなく「守る行動」

逃げるとは、問題を放置して何もせずに背を向けること。
守るとは、これ以上傷つかないように環境を変えることです。

退職代行を使うのは「守る」ための行動です。
扁桃体が過剰に働き、ストレスホルモン(コルチゾールやアドレナリン)が出続けている状態を放置すると、
心身に深刻な影響が出ます。

 1. 慢性疲労・頭痛・胃痛

 2. 動悸・息苦しさ

 3. 感情の鈍化や集中力低下

これは「病的な防衛モード」に入っている証拠です。
この状態を放置せず、環境を変えることこそが治療の一部なのです。

■医療に頼るのは弱さではない

退職代行を使ったあとに「申し訳ない」「逃げた気がする」と
自分を責める人は少なくありません。
しかしそれは、生き延びるために取った“安全行動”です。

医療では、薬物療法だけでなく、
認知行動療法やリワークプログラム(復職支援)など、
再出発を支える仕組みがあります。

医療機関は、「どうすれば自分を守りながら働けるか」を
一緒に考える場でもあります。

■まとめ

退職代行を使うことは、弱さではなく、脳が発する限界のサインに気づいた勇気ある行動です。

もし、職場の連絡を考えるだけで心臓がドキドキしたり、
涙や吐き気が出るようなら、
それは「気のせい」ではなく、脳の防衛システムが暴走している病的状態です。

退職代行を使ってもいい。
医療に頼ってもいい。
大切なのは、「これ以上、自分を傷つけないこと」です。

📋チェックリスト:フリーズ反応・心の限界サイン

  • 職場の電話・LINE通知を見た瞬間に動悸がする
  • 言葉が出ない、思考が止まる
  • 朝から涙が出て、体が動かない
  • 頭痛・めまい・吐き気が頻繁に起こる
  • 「逃げたい」が止まらない
    → 3つ以上当てはまる場合、扁桃体の過活動によるフリーズ反応が起きている可能性があります。

早めに医療機関に相談しましょう。
「言えないあなた」は、壊れかけているのではなく、
心が必死に自分を守ろうとしているのです。