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ナノプラスチックは体の「微小環境」を書き換える?—脳の変性とがんをつなぐ“慢性炎症”の話

「マイクロプラスチック」という言葉は、もう珍しくなくなりました。
でも、もっと厄介かもしれないのは、目に見えない“さらに小さな”プラスチックです。

今回紹介するのは、米国Duke大学の研究者らが中心となって書いた J Clin Invest専門家による見解・問題提起の論文(View point)2本です。

1本は神経変性疾患(パーキンソン病や認知症など)、もう1本はがん。扱う病気は違うのに、視点は驚くほど似ています。

キーワードは「慢性炎症」と「微小環境(microenvironment)」。
ナノプラスチックは、体の中で“病気が進みやすい空気”を作ってしまうかもしれない、という話です。

 

■ まず整理:マイクロとナノ、何が違うの?
ざっくり言うと、
・マイクロプラスチック:5mm未満
・ナノプラスチック:1µm未満(論文では10nm〜1µm程度も含めて議論)
というサイズ感です。

サイズが小さくなるほど、体のバリアをすり抜けたり、細胞と直接触れたりしやすくなる可能性が出てきます。
しかもナノは、検出そのものが難しい。研究者でも「干し草の山から針」どころか、もっと厳しい世界だと表現されています。

 

■ 「微小環境」って何?—細胞の“住み心地”のこと
微小環境というのは、細胞の周りの環境のことです。
酸化ストレス、炎症、免疫細胞の動き、脂質やたんぱく質の状態、腸内細菌…こういったものが混ざって、細胞の“住み心地”が決まります。

がんはこの微小環境が「育ちやすい土壌」になると進みやすい。
神経変性疾患も、炎症が続いたり、異常なたんぱくが集まりやすい環境になると悪化しやすい。

今回の2本は、ナノプラスチックがその“住み心地”を変えうる、という視点で書かれています。

 

■ 脳の話:炎症と「異常たんぱく」が出会いやすくなる?
神経変性疾患のViewpointでは、ナノプラスチックが体内のさまざまな臓器で見つかっており、脳でも検出されていることが前提として語られます。

注目点は、ナノプラスチックが「異物」だから問題、というだけではありません。
ナノプラスチックは表面の性質や“コロイド”としてのふるまいによって、たんぱく質など生体分子と強く相互作用しやすい可能性がある、と整理されています。

神経変性疾患でよく出てくるのは、
αシヌクレイン、アミロイドβ、タウ。
これらは、環境(特に脂質環境)の影響で形が変わり、凝集(集まって固まる方向)に傾くことがあります。ナノプラスチックの表面が、そういう“形の変化”を後押しするかもしれない、という問題提起です。

実際、ポリスチレンのナノプラスチック表面に人のαシヌクレインが吸着したときの構造を解析し、「病的な折りたたみ(pathological folding)」が起こり得ることを示した研究も引用されています。

さらに動物実験では、ポリスチレンナノプラスチックとαシヌクレイン(A53T変異)を同時に与えると、腸から脳へ伝わる流れが促され、運動機能が悪化する、という報告もあります。
“原因はナノプラスチックだ”と言い切る話ではありません。むしろ、「すでにある病態を押し進める環境因子」になり得る、という位置づけです。

 

■ がんの話:DNAを直接傷つけるより、「炎症の土壌」を作る
がんのViewpointの面白いところは、ナノプラスチックを“毒物(溶けて作用するもの)”というより“粒子(PM=粒子状物質)”として捉えている点です。

PM2.5は「DNAを直接変異させる」タイプの発がん物質としてだけではなく、慢性炎症を通じて、がんが育ちやすい微小環境を作る、と考えられています。
同じ発想が、マイクロ・ナノプラスチックにも当てはまるかもしれない、という議論です。

具体的には、
・マクロファージが異物として取り込み、炎症性のシグナルが続く
・腸のバリア(腸管の透過性)が乱れ、炎症が起こりやすくなる
・腸内細菌叢が変化し、炎症が長引く
といった流れが“がんを許す環境”につながり得る、という整理です。

さらに厄介なのが「添加剤」。
プラスチックは樹脂だけでできていません。性質を変えるために多様な化学物質が混ざっていて、製品によっては重量のかなりの割合を占めることがある、とされています。内分泌に影響するもの、酸化ストレスやDNA損傷に関与しうるもの、発がん性が指摘されるものも含まれる、という指摘がなされています。

 

■ 2本を並べて読むと見える“共通点”
結局、2本のViewpointが繰り返し言っているのは、こんなことです。

ナノプラスチックは、単独で病気を作る“犯人”というより、
慢性炎症や免疫反応のズレを通じて、体の微小環境を変え、
「もともと起きている病態」を進める方向に働く可能性がある。

脳では、神経炎症と異常たんぱく凝集の“起こりやすさ”を上げる。
がんでは、炎症が続きやすい“育ちやすい土壌”を作る。

ただし、現時点では分からないことも多く、因果関係の確定にはまだ距離があります。

 

■ ここ大事:今は「確実な予防法」を言える段階ではない
神経変性疾患のViewpointでは、現時点でナノプラスチックの体内動態や暴露源の全体像が十分に分かっておらず、一般の方がどう避ければよいかを“根拠をもって”提案するのは難しい、と明確に述べています。
そしてこの状況は、誤情報や商売の温床になりやすい。実際「デトックスできる」などの怪しいサービスへの警戒も呼びかけています。

 

■ それでも、日常でできる“損の少ない”工夫
「これをすればナノプラスチックが減る」と断言できる話ではありません。
ただ、健康と環境の両面で“損が少ない”選択として、できる範囲で次のような工夫は現実的です。

・熱い飲み物や食べ物を、プラスチック容器に長時間入れっぱなしにしない
・使い捨てプラスチックを“ゼロ”にしようとせず、まずは減らせるところから減らす
・室内のホコリ対策(換気、拭き掃除)を丁寧に(粒子暴露は室内でも起こり得るため)
・「検査」「除去」「デトックス」をうたう過剰な宣伝は、まず疑ってかかる

 

■ まとめ
・ナノプラスチックは小ささゆえに、体内でのふるまいがマイクロプラスチックと違う可能性がある
・脳では、炎症や異常たんぱく凝集の経路と結びつく可能性が議論されている
・がんでは、DNA変異よりも“慢性炎症と腸内環境”を介した促進の可能性が強調されている
・ただし、現段階は「仮説+初期エビデンス」の整理。因果の確定には今後の研究が必要
・不安を煽る情報や、根拠の薄い“デトックス商法”には要注意

参考文献

  1. West AB, et al. The hidden world of nanoplastics colliding with neurodegenerative diseases. J Clin Invest. 2026;136(4):e204824.
  2. Somarelli JA, et al. The carcinogenic consequences of the plastic pollution crisis. J Clin Invest. 2026;136(4):e203775.
  3. Mishra A, et al. Pathological Folding of α-Synuclein on Polystyrene Nanoplastic… J Phys Chem Lett. 2025. PMID: 41196586.
  4. Liang X, et al. Polystyrene Nanoplastics Hitch-Hike the Gut-Brain Axis to Exacerbate Parkinson's Pathology. ACS Nano. 2025. PMID: 39883073.