休むことが心を守る。 ―精神疾患の「発症予防」と「再発予防」につながる、有給休暇の上手な使い方―
◆「頑張りすぎる人」ほど、休むことが苦手(罪悪感を感じる)
「有給を使うと周りに迷惑をかける気がする」「忙しい時期に休むなんてできない」
そう感じて、気づけば何カ月も休んでいない方は多いのではないでしょうか。
けれど、“上手に休むこと”は、心の健康を保つための重要なスキルです。
休みを取らずに働き続けると、疲労が蓄積し、脳のストレス調整機能がうまく働かなくなります。これは、うつ病や不安障害などの発症リスクを上げることが、国内外の研究で確認されています。
◆有給休暇は「権利」であり、「メンタルヘルスの処方箋」
日本の労働基準法では、雇用から6か月以上・8割以上勤務していれば、毎年有給が付与されます。
有給休暇は「申し訳なくて使うもの」ではなく、「自分と職場を守るために使うもの」です。
◆なぜ“休むこと”が再発予防につながるのか?
① ストレスの「蓄積」をリセットできる
うつ病や適応障害は、ストレスと疲労の慢性的な蓄積が引き金になります。
休みを取ることで、自律神経やホルモンバランスをリセットする時間を確保できます。
② 睡眠の質が回復する
忙しさで寝つきが悪くなったり、浅い睡眠が続くと、心の回復が追いつきません。
休暇によって睡眠負債を解消し、脳の休息を取り戻すことができます。
③ 「仕事から離れる時間」が脳の回復を促す
研究では、“仕事を考えない時間(心理的切り離し)”を取ることで、
燃え尽きや再発のリスクが下がることが分かっています。
逆に、休暇中でもメールを確認したり、上司や患者のLINEに返していると、
脳は“休んでいない状態”になります。
◆具体的にどう休む? 実践しやすい「有給の使い方」7選
① 「四半期に1回の3連休」を固定化する
1年に4回、3連休を“固定”でスケジュールに入れてしまいましょう。
カレンダーに「○月○日~○日:メンタルメンテナンス休暇」と予定を入れておくと、仕事の調整がしやすくなります。
研究では、休暇の効果は約1〜2週間で薄れていくため、定期的な休暇サイクルが効果的です。
② 「繁忙期のあと」に休む
大きな業務やイベントが終わった後に、1日だけでも有給を取りましょう。
「頑張った後のクールダウン期間」を意識的に作ることで、脳の疲れをリセットできます。
③ 「時間単位の有給」で“早帰り”を習慣に
1時間単位で有給を取れる職場なら、夕方1〜2時間早く帰るだけでも十分。
「今日は疲れたから、18時ではなく16時半で帰る」など、“小さな休み”の積み重ねが大切です。
④ 「休暇前の準備」をして、完全に仕事から離れる
休暇前には、
- メールの自動返信(不在通知)を設定
 - 引き継ぎメモを共有
 - スマホ通知をOFFに
これだけで、休暇中の“罪悪感”が減り、休みきる力が高まります。 
⑤ 「休暇中は仕事をしない」ルールを決める
研究によると、休暇中に仕事メールを開いたり、連絡に返信すると、
休暇のリフレッシュ効果はほとんどなくなります。
自分で「仕事アプリの通知はOFF」「職場グループLINEは見ない」と決めておくのがおすすめです。
⑥ 「何もしない日」をつくる
旅行や予定を詰めすぎると、休みが「疲れるイベント」になってしまいます。
1日は完全に“何もしない日”を設けることで、心身の回復度が高まります。
何もしないことに罪悪感を覚えず、「脳のリカバリー時間」と捉えましょう。
⑦ 「DRAMMAモデル」で休みの質を上げる
研究では、休みの中で次の6つの要素(DRAMMA)を満たすと、
幸福感・意欲の回復が高いことが分かっています。
| 
 要素  | 
 内容  | 
 具体例  | 
| 
 D:Detachment  | 
 仕事から離れる  | 
 スマホを見ずに散歩・温泉  | 
| 
 R:Relaxation  | 
 リラックス  | 
 好きな香り・音楽・自然の中で過ごす  | 
| 
 A:Autonomy  | 
 自分のペース  | 
 “やることリスト”を作らない  | 
| 
 M:Mastery  | 
 達成感  | 
 料理・ガーデニング・読書など小さな成功体験  | 
| 
 M:Meaning  | 
 意味づけ  | 
 自分にとって大切な価値観を思い出す  | 
| 
 A:Affiliation  | 
 つながり  | 
 信頼できる人とゆっくり話す  | 
◆再発予防のための「休みのサイン」を見逃さない
次のようなサインが出たら、“小休暇”+“医療機関への早めの相談”を。
- 朝起きられない、寝ても疲れが取れない
 - 仕事に行く前に動悸や吐き気が出る
 - 好きなことに興味が持てない
 - 週末に「休んだ気がしない」
 - 飲酒量・間食が増えている
 
これらは「心のエネルギー残量」が減っているサインです。
1〜2日の有給でリズムを立て直すだけでも、悪化を防げることがあります。
それでも改善しないときは、心療内科に早めに相談を。
◆有給を“上手に使う”ための3つの習慣
- カレンダーに先に休みを入れる
→ 「空いたら休む」ではなく、「予定として休む」 - 休暇を「メンタルメンテナンス」と言語化する
→ “遊び”ではなく“整える時間”と認識する - 休みをとりやすい雰囲気を職場で共有
→ 同僚や上司も「休んでいい」と感じられる環境づくりを 
◆企業・管理職の方へ:職場全体の「休み文化」が予防になります
- 部下の有給取得状況を定期的に確認
 - チームでカバーし合える体制づくり
 - 休暇中は「連絡しない・させない」文化を共有
 
組織として“安心して休める仕組み”を整えることが、
離職防止・生産性向上・メンタル不調の減少につながります。
◆まとめ
- 休むことは「甘え」ではなく、回復の技術。
 - 有給休暇は「義務」でもあり、「自分を守る道具」。
 - 心と体を整えるには、“計画的に・定期的に・完全に”休むことが大切。
 
心療内科では、「うまく休めない」「罪悪感で休めない」というご相談もよくあります。
そうした方には、休み方の練習からサポートできます。
必要に応じて、主治医や産業医と一緒に「休暇+治療+復職」をトータルで考えていきましょう。
▶ 監修:
国分寺イーストクリニック
精神科医 酒井 遼
(厚生労働省メンタルヘルス対策指針・労働衛生法に基づく解説などを参照)