会社ができる範囲での合理的な配慮が望ましい、とは何か ― “会社ができる範囲”を、感情ではなく3つの軸で見える化する
近年、うつ病や適応障害などのメンタルヘルス不調から復職する従業員への対応について、
「会社としてどこまで配慮すべきか」
「やりすぎても、やらなすぎても問題にならないか」
と悩む人事・労務担当者は少なくありません。
「会社ができる範囲で合理的な配慮が望ましい」という表現はよく使われますが(当院でもよく使用しています)、
その中身が曖昧なままでは、現場は判断に迷い、対応が属人的になります。
本コラムでは、法的・医学的観点を踏まえたうえで、企業が“現実的にできる合理的配慮”とは何かを整理します。
※本記事は、メンタルヘルス不調者の復職支援における「合理的配慮」の考え方を、企業実務で使える形に整理したものです。個別の人事判断・法的判断は、就業規則、産業医・社労士・弁護士等の助言を踏まえて最終決定してください。
■ 合理的配慮とは「特別扱い」ではない
合理的配慮とは、
障害や疾病によって生じる不利を、過度な負担を伴わない範囲で調整すること
を指します。
重要なのは、
・成果を免除すること
・業務責任を恒久的に軽減すること
ではありません。
あくまで目的は、
従業員が安全に就労を継続できる状態をつくること
です。
メンタルヘルス不調における合理的配慮は、
「働かせない」ための配慮ではなく、
「無理なく働ける条件を一時的に整える」ための調整
と理解すると整理しやすくなります。
■ 医学的にみた「復職直後」は不安定な時期
医学的には、症状が改善して復職できる状態であっても、
復職後しばらくの期間は再発リスクが高いことが知られています。
特に問題になりやすいのは、
・業務量が急に元に戻る
・時間的プレッシャーが強い
・同時並行作業が多い
・責任の重さが一気に戻る
といった「心理的要求度」の急上昇です。
研究では、
業務の要求度が高い職場ほど、うつ病による再休職リスクが高い
ことが示されています。
つまり、復職者に対する配慮は、
「甘やかし」ではなく
再休職という企業側のリスクを下げる実務対応
でもあります。
■ 「会社ができる範囲」とは、どこまでか
合理的配慮の判断で重要なのは、
会社に過重な負担を課さないことです。
以下は、一般に
「会社が対応可能な範囲」と整理されやすい配慮です。
【比較的導入しやすい配慮】
・短時間勤務(時限的)
・時差出勤
・残業免除
・業務量の一時的調整
・マルチタスクを避け、業務を単純化
・定期的な面談による体調確認
これらは、
業務の本質を変えずに負荷を調整する対応であり、
多くの企業で実施可能です。
【慎重な検討が必要な配慮】
・恒常的な業務免除
・他の従業員への過度な業務しわ寄せ
・配置転換による組織全体への影響が大きい対応
これらは、
「合理的配慮」を超えて
企業に過重な負担が生じる可能性があるため、
期間・範囲・代替策を明確にしたうえで検討する必要があります。
■ 実務で迷わないための判断軸(3点)
復職支援で判断に迷った場合、次の3点で整理すると対応が安定します。
① 期間が限定されているか
→ 配慮は原則「一時的措置」。恒久化しない。
② 業務の本質を変えていないか
→ 職務そのものを免除していないか。
③ 組織全体に過重な負担をかけていないか
→ 他の従業員への影響が過度でないか。
この3点を満たしていれば、
多くの場合「合理的配慮の範囲内」と説明可能です。
■ 主治医意見書・産業医意見の使い方
会社側が最も避けたいのは、
医学的根拠が不明確なまま判断を迫られることです。
そのため、
・主治医意見書
・産業医の就業判定
を活用し、
「なぜ配慮が必要か」
「どの程度・どの期間か」
を文書で可視化することが重要です。
これにより、
・恣意的判断
・後からのトラブル
を防ぐことができます。
■ 合理的配慮は「会社を守る仕組み」でもある
適切な合理的配慮は、
・再休職の防止
・長期欠勤リスクの低減
・安全配慮義務違反の回避
・職場の混乱防止
といった、企業側のリスクマネジメントにも直結します。
「どこまでやるべきか」ではなく、
「どこまでなら合理的に説明できるか」
という視点で整理することが重要です。
■ まとめ
合理的配慮とは、
・一時的
・業務の本質を変えない
・企業に過重な負担をかけない
範囲で、
復職者が再び安定して働ける環境を整えることです。
明確な判断軸を持つことで、
会社も、現場も、従業員本人も迷わなくなります。
「配慮しすぎないこと」も、
「配慮しなさすぎないこと」も、
どちらも重要です。
合理的配慮とは、
感情ではなく、構造で判断するものです。