突然の異動のストレスを軽くする —「どうしようもない状況」をやり過ごし、乗り切る実践メモ—
突然の異動は、能力の問題というより「コントロール感(自分で舵を握れている感じ)」を奪われやすい出来事です。
だから、ショック・怒り・不安・落ち込みが強く出ても不思議ではありません。
ここでのゴールは、気合で前向きになることではなく、
“消耗を最小化しながら、仕事と生活を壊さずに通過する”こと。
そして、落ち着いたタイミングで「次の一手」を考えられる状態に戻すことです。
■ まず知っておきたい:最初の反応は「正常」
意図しない異動直後は、脳が“危機モード”になりやすく、次のような反応が起こります。
・頭がずっとその件で埋まる(反すう、ぐるぐる思考)
・眠れない/途中で目が覚める
・胃腸症状、動悸、息苦しさ
・「もう終わった」「評価された/切られた」など極端な解釈
この時期に大事なのは、感情を消そうとするより
「今は危機モードだから、判断力が落ちて当然」と理解することです。
■ 最優先はこれ:「変えられる/変えられない」を仕分ける
ストレスは“変えられないもの”に噛みつくほど増えます。
紙やメモに、次の3つに分けて書き出すだけでも効果があります。
A)自分で変えられる(コントロール可能)
・睡眠、食事、運動
・引き継ぎの段取り
・新部署での学び方、優先順位
・相談する相手を確保する
B)影響は与えられる(部分的にコントロール可能)
・担当範囲の調整
・研修やOJTの依頼
・業務量の相談、期限の再設定
・通勤や勤務形態の相談(可能な範囲で)
C)変えられない(コントロール不能)
・異動そのもの
・決定の背景、過去の出来事
・他人の評価や噂
方針はシンプルです。
“今日からはAとBにだけ、力を使う”
Cは「考えたくなるけど、今は保留」にします。
■ 72時間ルール:大きな決断は“保留”でいい
異動直後は、衝動的に
「辞める」「全部拒否する」「全部我慢する」
のどれかに振れやすい時期です。
おすすめは、
・退職/休職などの大きい決断は、最低でも72時間は保留
・その間は“生活と仕事を壊さない”ことだけやる
です。
「保留」は逃げではなく、“判断力を回復させるための戦略”です。
■ まずは2週間:60点で乗り切るサバイバル計画
新環境は、脳の処理負荷が上がるので、誰でも効率が落ちます。
最初から80点を狙うと、心身が先に折れます。
【2週間の目標】
・重大ミスを増やさない
・睡眠を大崩れさせない
・相談先を1人つくる
・新部署の「暗黙ルール」を把握する
【毎日の“最低ライン”(チェック式)】
□ 起床時刻はなるべく固定(就寝は多少ズレてもOK)
□ 食事を抜かない(特に朝~昼)
□ 10分だけ歩く/ストレッチする
□ その日一番大事な仕事を1つだけ決める
□ 連絡経路・決裁経路・締切の“地図”を更新する
【仕事で効くコツ:最初に「型」をつくる】
・「誰に聞けば最短か」を3人決める(キーパーソン)
・“最初の小さな成果”を作る(例:資料の整備、手順書の更新など)
・メモは「用語」「例外」「地雷」の3項目で残す(後から効く)
■ ぐるぐる思考を止める:2分でできる対処を持つ
反すう(同じ考えが止まらない状態)は、ストレスを増幅させます。
「考えない」ではなく、“いったん降りる技術”を用意します。
① 呼吸(吐くを長く)
・4秒吸う → 6秒吐く × 10回
ポイントは「吐く」を丁寧に。身体が落ち着くと、思考の勢いも落ちやすくなります。
② 「心配タイム」方式(考える時間を囲う)
・例:毎日19:30〜19:50だけ異動について考える
それ以外の時間に浮かんだら、メモして「予約時間に回す」。
心配をゼロにするのではなく、“管理できる形”にします。
③ ラベル貼り(言い換えより先に)
前向きに変換できない時期は、無理に変換しない。
・「これは不安の思考」
・「これは怒りの反応」
と“状態に名前をつける”だけで、巻き込まれにくくなります。
④ 注意転換(五感で“今ここ”に戻る)
・今見えるものを5つ
・聞こえる音を4つ
・触れている感覚を3つ
…のように、感覚を使って脳を現実に戻します。
■ 人間関係の摩擦を減らす:最初は「好かれる」より「誤解を減らす」
新部署のストレスは、業務より“空気”で増えることがあります。
深い関係を急がず、摩擦を減らす行動だけ先にやるのが安全です。
・挨拶+一言+感謝(短く)
例「今日からお世話になります。早く覚えます。よろしくお願いします」
・相談は「今、3分だけいいですか?」と許可を取る
・否定より質問(“教えてください”を増やす)
・噂話の輪には“最初の2週間”は近づかない(情報が歪みやすい)
■ 上司・人事に相談するとき:感情より「条件」で話すと通りやすい
「つらい」「納得いかない」は自然ですが、
交渉が必要な場面では“条件”に落とす方が前に進みます。
【相談の型(テンプレ)】
1)目的:早期に成果を出したい
2)現状:現時点でのリスク(引き継ぎ不足、業務量、知識ギャップ)
3)提案:必要な条件(期間/範囲/サポート/研修)
4)代案:Aが難しければB
例)
「早期に戦力化するため、最初の1か月は担当範囲を○○に絞れますか」
「引き継ぎが不十分だと事故が起きるので、○日だけ同席をお願いできますか」
■ 「逃げ道」を作るのは負けではなく“保険”
どうしようもない状況ほど、“ここから出られる”が効きます。
今すぐ辞める必要はなくても、選択肢を見える化すると心が安定します。
・期限を決める(例:3か月後に見直す)
・社内の別ポジションや研修情報を集める
・スキル棚卸しをする(できること/伸ばすこと)
・外部の選択肢も「見るだけ見る」(安心材料になる)
■ 受診・相談の目安(早め推奨)
次が2週間以上続く/急に悪化する場合は、早めに相談してください。
・不眠、食欲低下、体重変化
・動悸、過呼吸、腹痛など身体症状が続く
・涙が止まらない、集中できない、ミスが明らかに増える
・「消えたい」などの希死念慮がある
産業医、EAP、心療内科/精神科、かかりつけ医、信頼できる上司・同僚など、
“ひとりで抱えない”が安全です。
■ まとめ
・意図しない異動のストレスは「コントロール喪失」から強くなりやすい
・まずは“変えられる/影響できる/変えられない”を仕分ける
・最初の2週間は60点でOK。生活を壊さず、仕事の「型」を作る
・反すうには、呼吸・心配タイム・注意転換など「降りる技術」を持つ
・交渉は感情より「条件」で。逃げ道は保険として作ってよい
・不眠や強い不調が続くときは早めに相談を
参考文献
- van der Klink JJ, et al. The benefits of interventions for work-related stress. Am J Public Health. 2001;91(2):270–276.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1446543/
- Richardson KM, Rothstein HR. Effects of occupational stress management intervention programs: A meta-analysis. J Occup Health Psychol. 2008;13(1):69–93.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18211170/
- Hofmann SG, et al. The Efficacy of Cognitive Behavioral Therapy: A Review of Meta-analyses. Cognit Ther Res. 2012;36:427–440.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3584580/
- 厚生労働省 こころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
https://kokoro.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省(こころの耳)腹式呼吸をくりかえす
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/self/self_03.html
【本文ここまで】