抑うつ状態「極期」の過ごし方 ― ご家族の方へ ―
「何もできない」「ずっと寝ている」「消えてしまいたいと言う」――
そんな状態にあるご家族を目の前にして、どう接すればいいのか分からず、不安や無力感を抱える方も多いかと思います。
このコラムでは、抑うつ状態の「極期」と呼ばれる時期に、ご家族が知っておくとよいこと・できることについて、ご紹介します。
■「極期」とは? ― 抑うつ状態のピーク
「極期(きょっき)」とは、抑うつの症状が最も強く出ている状態を指します。
- 日常生活が困難に
起き上がる、食べる、会話をするなど、あらゆる行動にエネルギーが必要で、それが全く足りていない状態です。 - 感情や思考の反応が乏しくなる
「悲しい」などの感情すら出てこないこともあり、「何も感じない」「頭が動かない」と訴える方もいます。 - 「死にたい」「消えたい」と語る/沈黙する
直接的な希死念慮を訴える場合もあれば、何も語らず閉じこもる場合もあります。どちらも心のSOSサインです。
■ 医療機関との連携を大切に
このような「極期」は、クリニックだけでは対応が難しいこともあります。
▶ 特に以下のような状態があるときは:
- 食事や水分を全くとれていない
- 意思疎通が難しい
- 自傷行為や希死念慮が強い
このようなケースでは、「入院可能な精神科病院」を選択肢に含めておくことが大切です。
🏥 入院は“最後の手段”ではなく、“安全に休むためのサポート”です。
ご本人とご家族の負担を軽減し、安心して治療に向かう環境を整えることができます。
担当医と相談し、必要時に備えて受け入れ可能な病院を確認しておくと安心です。
■ご家族ができる5つの関わり方
- 「何もしない」ことも治療です
極期の回復には「休むこと」が最も重要です。本人が一日中寝ていても、それは“怠けている”のではなく、「治療の一部」です。
🗨 声かけ例:「今は休むことが一番大事だよ」「しんどいね、そばにいるよ」
- 励ましすぎない・比べない
「頑張って」「前はできてたのに」といった言葉は、本人を追い詰めてしまいます。
❌ 「気分転換に出かけてみたら?」
⭕ 「今日は起きられただけですごいね」
- 生活リズムは“できる範囲”で整える
生活の「土台」は大切ですが、無理をさせないことが最優先です。
以下のような“小さなサポート”が、本人の負担を減らしつつ、少しずつ回復を支えます
- 朝にそっとカーテンを開ける(起こさなくてもOK)
- 食事は一口でも食べられたら褒める
- 入浴できない日は体を拭くだけでもよい
- 声かけは共感ベースで:「眠れた?」「今日はどんな気分?」
🔹 ポイント:「〜すべき」ではなく、「できたらラッキー」でOK。
家族が“揺れに付き合う存在”になることが、何よりの安心感になります。
- 沈黙を恐れず、そばにいる
反応がなくても、「何も返ってこない」わけではありません。
そばにいるだけで伝わる安心感もあります。
無理に話させようとせず、一緒に静かな時間を過ごすことも、立派な支えです。
- ご家族自身も“助け”を受ける
最も大切なのは、「ご家族が倒れないこと」。
不安や心配が大きいときは、医師・看護師・カウンセラー・地域支援機関などに相談してください。
ご家族が安心していられることが、本人の安心にもつながります。
■ 最後に:回復には「波」があります
うつ病の回復は、まっすぐ右肩上がりではありません。
良くなったり、また落ち込んだりを“波のように繰り返しながら”、少しずつ前に進んでいきます。
焦らず、比べず、その人のペースで。
そして、ご家族のあなた自身も、どうかご自身の心と体を大切にしてください。
☎ 相談先の一例
- 地域の精神保健福祉センター
- 主治医・かかりつけクリニック
- 精神科救急情報ダイヤル(都道府県による)
- 家族会・ピアサポート団体 など