ビタミン不足がうつや不安を悪化させる?──精神科医が解説する「心と栄養」の関係
心の不調と「栄養」は関係ある?
うつ病や不安障害の治療と聞くと、薬やカウンセリングを思い浮かべる方が多いかもしれません。でも実は、ビタミンなどの微量栄養素の不足が、気分の落ち込みやイライラ、不安の背景にあることがあります。
近年の研究では、ビタミンD、ビタミンB群、ビタミンCなどが、脳の神経伝達物質の合成やストレス反応の調節に関わっていることがわかってきました。心の不調とビタミンの関係を、疾患別にご紹介します。
ビタミンDとうつ・不安・ADHD
ビタミンDは、日光に当たることで体内で合成される脂溶性ビタミンで、骨の健康だけでなく、脳にも多くの受容体が存在します。
うつ病の患者さんでは、ビタミンDが不足していることが多く、血中濃度が低い人ほど、抑うつ症状が重いという研究があります。ビタミンDの補充により、気分が改善したという臨床試験の報告もあります。
また、全般性不安障害やADHDでもビタミンD欠乏が関係している可能性があり、一部の研究ではビタミンD補充によって不安や多動・衝動性が軽減したという報告があります。
ビタミンB群とうつ・統合失調症・発達
ビタミンB群(特にB12・B6・葉酸)は、セロトニンやドーパミンなど、脳内の神経伝達物質を作るうえで重要です。
うつ病の方では、ビタミンB12や葉酸が不足しているケースが多く、補充することで治療反応が良くなる場合があります。妊娠中や産後の女性でこれらのビタミンが不足していると、産後うつのリスクが高まるという研究もあります。
統合失調症の方にもB12や葉酸の不足が見られることがあり、ビタミンB群の補充で全体的な精神症状が改善したというメタ解析も発表されています。
ADHDの子どもたちでも、健常児に比べてB12や葉酸が低いという報告があり、注意力や集中力への影響が示唆されています。
ビタミンB6と不安
ビタミンB6は、抑制系の神経伝達物質「GABA」を合成するのに必要な栄養素です。GABAは不安を抑える働きがあるため、B6が不足するとイライラしやすくなったり、神経が高ぶりやすくなる可能性があります。
最近の研究では、健康な若年成人に高用量のビタミンB6を1か月間補充したところ、不安感が有意に減少したという結果も出ています。気分の波が激しい方にとって、B6は心のバランスをとる栄養素かもしれません。
ビタミンCと気分・エネルギー
ビタミンCは、抗酸化作用に優れた水溶性ビタミンで、脳内でドーパミンやノルアドレナリンの合成にも関わっています。
軽度のビタミンC不足でも、倦怠感・無気力・気分の落ち込みなどが起きる可能性があり、サプリメントによって「精神的活力」が向上したという報告もあります。
妊婦さんや高齢者では、食事からの摂取量が足りないことも多いため、注意が必要です。
ライフステージ別:どんな人がビタミン不足に注意?
成人:日照不足によるビタミンDの低下や、食生活の偏りによるB群・C不足が見られます
高齢者:吸収率の低下によりB12やDが欠乏しやすく、認知や気分に影響することがあります
妊婦・産後:胎児発育や産後のメンタルに葉酸・B12・Dが重要です
子ども・思春期:ADHDや発達障害との関連が報告されており、栄養バランスが大切です
サプリメントは飲むべき?
ビタミンは、足りない場合に補うことで効果が出ます。逆に、もともと十分な人が追加で飲んでも効果はなく、過剰摂取は副作用のリスクもあります。
気になる方は、血液検査などで栄養状態を確認し、必要に応じて医師と相談しながら補うことをおすすめします。
心と栄養のバランスを整える
ビタミンは、心の土台を支える大切な「栄養のインフラ」です。薬やカウンセリングに加えて、食事や栄養を見直すことで、より健やかなこころの回復が期待できます。
当院では、必要に応じてビタミンや栄養状態の確認も行っております。食欲がない、疲れやすい、気分の波が大きい…そんなお悩みがある方は、お気軽にご相談ください。